【ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展】もうひとつの楽園を探検する|クロードクル

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2015年11月11日
【ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展】もうひとつの楽園を探検する

「ゴーギャンといえばタヒチ」ですが、そこに到る途中、ターニングポイントを迎えたのがポン=タヴァンです。ゴーギャンの「もうひとつの楽園」を紹介する『ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展』をご案内します。

ライター
  

ポン=タヴァン…もうひとつの楽園

ゴーギャンの作品といえばポスト印象派で、タヒチで描いた生命がむせかえるような楽園を思い浮かべます。
しかし、出発点は印象派で、始点と終点だけ見ると別人が描いたかのようです。
初期の、ゴーギャンの仕事が大きく変容したのがフランスのポン=タヴァンだと知って、そのヒミツを探るべく、『ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展』を訪れました。
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フランス北西部ブルターニュ地方の小さな村ポン=タヴァン。
そこは、森や小川、変化に富んだ自然が広がり、ブルトン語など古い独特の文化が生きる土地でした。

日曜画家からプロ画家になったものの、絵が売れず生活に困ったゴーギャンがポン=タヴァンを訪れたのは1886年。38歳の頃。
その地を選んだ理由は宿代など滞在費が格安だったこともあるようですが、風土に魅せられたことも影響しており、ゴーギャンは1886~94年の間に5回も逗留します。

本展の第1章「ゴーギャン最初の滞在」に、初めてゴーギャンの目に映ったポン=タヴァンの風景が展示されています。
点描画風の繊細な筆致でやさしい印象が残る《ポン=タヴァンの木陰の母と子》です。
そして終章に、最初のタヒチ滞在で描かれた濃厚な筆致の《タヒチの風景》が展示されています。
この間に何があったのか…?

本展は、
第1章 ゴーギャンの最初の滞在
第2章 総合主義の創出
第3章 ル・プールデュでの滞在とグループの拡大
第4章 ブルターニュでの最後の滞在、そして最後の仲間たち
で、構成され、ゴーギャンの作品と、彼が影響を与えそして影響を受けた画家たちの作品が展示されています。
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なお、展示会場は、壁にしつらえた窓や照明でポン=タヴァンの雰囲気を演出しています。
また、11点あるゴーギャンの作品にはバックボードがついていて、ひと目で「ゴーギャンだ」とわかるようになっているので親切です。

総合主義・・・現実と想像のコラボ

ゴーギャンは、ブルターニュについてこう書いています。
「そこには野生があり、原始がある。私の木靴が花崗岩の大地に響き渡るとき、私が絵画において探し求めている、鈍くこもったような力強い音が聞こえてくるのだ」
(画家シュフネッケルに宛てた手記。1888年2月、ポン=タヴァンにて)

土地や古い伝統文化からのインスピレーションを受け、彼は新しい絵画を追求します。
そして、1888年のポン=タヴァン再訪は、ゴーギャンにとって大きな転機になりました。

ゴッホの紹介でゴーギャンの元にエミール・ベルナールが訪れます。
20歳年下の才気あふれる青年、ベルナールが傾倒する「クロワゾニズム」にゴーギャンは関心を持ちました。
クロワゾニズムとは、中世の七宝焼き(クロワゾネ)の装飾技法で、濃淡のない色をくっきりとした輪郭で描くのが特徴です。

本展の第2部にステンドグラスの下絵となった《会話(ステンドグラスのエスキス、サン=ブリアック》に特徴がよく表れています。
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そして、ゴーギャンとベルナールが影響しあって生み出されたのが「総合主義」です。
総合主義とは、平面的な構成、純色に近い色彩などのはっきりした表現手法で、「目に見える」現実と「目に見えない」想像した世界を1つの画面に配置する、というスタイルです。

それは、ゴーギャンにとって、一瞬の光をとらえようと「目に見える世界」を描いた印象派からの決別であり、「目に見えないものを視覚化する」という19世紀末から20世紀美術の先駆けとなりました。

1888年夏、ポン=タヴァンを再訪したゴーギャンが描いた《説教の後の幻影》は、まさに総合主義を体現した作品です。
※本展第2章「総合主義の創出」のパネル展示で「総合主義」の詳しい説明がなされています。

ゴーギャンの色彩、ナビ派への影響

純色の大胆な使用、というのは「総合主義」の特徴の一つです。
本展覧会の目玉ともいえるゴーギャンの《二人の子供》は、背景の黄色が目を射抜くようでとても印象に残ります。
私は、展覧会からの帰途、雑踏の中で「黄色」だけが浮かび上がり目に留まるという不思議な経験をしました。それはさておき、
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ゴーギャンは、初めて会ったポール・セリジェに次のようなアドバイスをしました。

「もし目の前の樹が緑がかって見えたら、ためらわずにパレットの中の最も美しい緑色を使いなさい、影が多少青みがかって見えたらその部分を鮮烈な青で塗りなさい」
(『フランス絵画史』高階秀爾 講談社学術文庫)

ポール・セリジェはゴーギャンより16歳下で、ゴーギャンの色彩やスピリチュアルな表現に強い影響を受け、「ナビ派」を創出します。
本展にはセリジェの作品が多く出展されていますが、なかでも第2章で展示されている《呪文或いは物語 聖なる森》が不思議で素晴らしかったです。森の奥で何か儀式する女性と聖獣を描いた神秘的な作品です。

ナビ派は、ゴーギャンの影響を最も受け、内面性と秩序を重視しました。本展では、第3章、第4章にジョルジュ・ラコンブ、モーリス・ドニの作品が出展されています。日本初公開の作品もあるので要チェックです。
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また、今回の展覧会ではゴーギャンに影響を受けた26名の画家の作品が展示されています。ゴーギャン「だけ」の展覧会でないのでタヒチへ到る作風の変化を追うことは少し難しいのですが、ゴーギャンの影響を受けた画家たちの作品を通じて、その変化を想像するのも楽しいのではと思います。

ゴーギャンとポン=タヴァンの画家たち展
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/15/151029/
パナソニック 汐留ミュージアム
開館期間 2015年10月29日(木)~12月20日(日)
開館時間 午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日 11月4日(水)、11月11日(水)
入館料一般:1,000円 65歳以上:900円 大学生:700円 中・高校生:500円 小学生以下:無料  
20名以上の団体:各100円割引   障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料で入館可能

著者:本間純子

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旅先では必ずその土地の美術館・博物館を訪れるmuseumフェチです。「なぜその作品を選んだのか」というコレクターのまなざしに関心があり、企業美術館や個人のコレクションに関する展覧会はできるだけ足を運んでいます。

19世紀後半から20世紀前半のアートと社会背景に興味があり、好物は浮世絵と抽象画です。ロシア語を勉強してしまうほどロシア・アヴァンギャルドが大好きです。ちなみにロシア語検定3級です。

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