
貴重な奈良絵本や絵巻が数多く所蔵されている國學院大學博物館
國學院大學では数多くの貴重な奈良絵本や絵巻を所蔵され、それら資料の研究がなされている。そして、それら資料を、國學院大學の学生のみならず、多くの方に見てもらいたいという趣旨で、國學院大學博物館にて公開されているようです。國學院大學研究開発機構の大東敬明先生によると、「神仏・異類・人 —奈良絵本・絵巻にみる怪異—」展は、これまでの研究成果を公開し、若い学生などにも興味・関心を持ってもらえるようにと企画された、とのことです。
定期的に妖怪ブームは来ていますが、『妖怪ウォッチ』が流行っている昨今は「第○次妖怪ブーム」なのでしょうか。とはいえ、妖怪人気はもうブームの域を超え、定番化していると言っても過言ではないでしょう。そして今では“Yōkai”として、その人気・知名度は国内の域を超え、グローバル化しつつあります。
「神仏・異類・人 —奈良絵本・絵巻にみる怪異—」展では、下記のように展示の順路が進んでいきます。章が進むほど、怪異性が強まっていき、マニア垂涎ものの奈良絵本を鑑賞できます。
第一章 王朝の絵巻 『竹取物語』『伊勢物語』など
第二章 異類の顕現 『酒呑童子』『道成寺縁起』『賢学草子』など
第三章 神仏の哀歓 『熊野の本地』『異代同戯図』など
第四章 異類の活躍 『さくらの姫君』『百鬼夜行絵巻』『付喪神記』など
世界最古のSFとも言われることがある『竹取物語』の奈良絵本 (國學院大學図書館所蔵「竹取物語絵巻第二巻」より)
会期は下記のようになっていますが、前期と後期で展示替えがありますので、少なくとも二回は通う必要がありそうです。
平成27(2015)年11月21日(土)~平成28(2016)年2月7日(日)
前期) 平成27年11月21日(土)~12月23日(水)
後期) 平成28年1月8日(金)~2月7日(日)
すべてのものに『神』が宿るという思想と『異類』への愛
以下に本展示で見ての極私的私見について述べていきたいと思う。今にして思えば、学生時代から中二病、高二病、大二病を発病していたのかもしれないが、当時から異形、妖精、妖怪はとても好きだった。子供時代に『ゲゲゲの鬼太郎』を見て育ったし、アウトサイダー的存在としての自分を、異類的存在に投影していたのかもしれません。
ところで、筆者が異類を描いた絵本を鑑賞したのは、2001年に国立歴史民俗博物館で開催された「異界万華鏡~あの世・妖怪・占い」以来、14年ぶりでした。
「異界万華鏡~あの世・妖怪・占い」展の図録(2001年国立歴史民俗博物館)
国立歴史民俗博物館に所蔵されている『百鬼夜行絵巻』について、図録で解説されています。
「異界万華鏡~あの世・妖怪・占い」展でも、異界を描いた絵本、絵巻も展示されていて、今回の「神仏・異類・人 —奈良絵本・絵巻にみる怪異—」展と趣向が通じる面がありました。
特に、江戸時代に数多く制作された『百鬼夜行絵巻』は、どちらの展示でも見られました。「百鬼夜行」という言葉が使われていますが、作品中に登場する妖怪たちは、「百器夜行」という言い換えが適しているような、器物の妖怪たちが中心となっています。そういう点で、『付喪神記』との関係もあるのではないかとも考えられています。また、百鬼夜行絵巻に描かれるのは、器物以外に動物や植物なども描かれており、鳥獣草木器物戯画絵巻という性格から作品を鑑賞することもできます。
『百鬼夜行絵巻』に描かれた器物の妖怪(國學院大學図書館所蔵「百鬼夜行絵巻」より)
今回の展覧会で、ビジュアル的に筆者の目を一番魅了したのは、『付喪神記』の器物の妖怪たちでした。
『付喪神記』の器物の妖怪たち。国学院の学生たちにも人気だそうで、一番人気は、上段左から二番目の「しゃもじ」という妖怪だそうです。
妖怪というおどろおどろしいイメージとは程遠く、『付喪神記』の妖怪たちは、とても表情豊かに、可愛く描かれています。この『付喪神記』は、人間たちに捨てられた器物が、妖怪となって人間たちに復讐するという物語なのだそうです。
大量生産・大量消費の現代では、物を捨てることに罪悪感を抱く人は少なくなっていそうですが、『付喪神記』が作成された江戸時代は、今よりももっと物が貴重な存在だったと思われます。愛着を持って使っていたものを捨てることの罪悪感を抱く人もきっと多かったからこそ、こういう物語も生まれやすかったのでは、と思われます。
西洋的な、二元論的な世界観・宗教観の影響下では、「悪」や「悪魔」は、自分という「善」の外部にある、退治されるべきものとして描かれています。そのためか、その絵は人を恐怖に陥れるような重い雰囲気のものが多い印象があります。しかし、『付喪神記』をはじめ、今回の展示されている奈良絵本の異類たちは、どこか人間臭く、愛嬌があるものが多いです。
たとえば、妻になる女を神に予言された僧が、その女を嫌って殺そうとするが、生きていて、結局、一緒になるという話を描いた『賢学草子』の殺害場面の絵が、人をあまり怖がらせないのはなぜでしょうか。人が恐怖を感じるのは、想定外の出来事が起こるからであって、この僧侶の場合は、「定められた」出来事が起きたことを、俯瞰的に見られるので、恐怖を抱かせにくいのかもしれません。
『道成寺縁起』『賢学草子』に出てくる「キャラクター」を複写したものが壁に貼られている演出も素敵です。
東洋的な宗教観では、善も悪も別々だったり、外側にあったりするわけでなく、すべて心の中に存在する、と考える面があります。戦うべき悪は外側にあるのではなく、自らの内側にこそ存在すると。そして、自分や人間だけが心を持つのではなく、他の動物・植物、そして石や器物といった無機物までも心を持つと考えるのも、まさに東洋的なアニミズム的な世界観と言えるでしょう。
そういった八百万の神のファンタジックな世界観が「神仏・異類・人 —奈良絵本・絵巻にみる怪異—」展の絵本たちからはみなぎっています。そんな奈良絵本を生んだ江戸の人たちの豊かな想像力と超絶的な絵画の職人芸からは、多くのパワーをもらえました。
「神仏・異類・人 ―奈良絵本・絵巻にみる怪異―」
http://www.kokugakuin.ac.jp/oard/museum_h27_kaii.html
●会期
平成27(2015)年11月21日(土)~平成28(2016)年2月7日(日)
前期) 平成27年11月21日(土)~12月23日(水)
後期) 平成28年1月8日(金)~2月7日(日)
※会期中、冬季休館がありますのでご注意ください。
●会場
國學院大學博物館 企画展示室
國學院大學渋谷キャンパス
学術メディアセンター 地下1階 國學院大學博物館
●開館時間
午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
●休館日
12月7日(月)
12月24日(木)~1月7日(木)
1月16日(土)
1月17日(日)
1月25日(月)