【マリー・ローランサン展】かわいいを追求したパリジェンヌ|クロードクル

  • フォークラスのライター募集
2,235 views
2015年11月16日
【マリー・ローランサン展】かわいいを追求したパリジェンヌ

「かわいい」を追求したマリー・ローランサンの、甘くて、優しくて、はかない世界。

ライター
  
甘くて、優しくて、けだるくて、せつなくて、はかない・・・。
そんな女の子の夢のような作品たちと出会うことができるのが、2015年9月12日から12月20日に府中市美術館で開催中の「マリー・ローランサン展」です。
三人の若い女
マリー・ローランサン《三人の若い女》1953年頃 マリー・ローランサン美術館蔵

マリー・ローランサンは、20世紀にパリで活躍した女性画家です。
淡くやさしいパステルカラーで主に女性たちを描き、そのロマンティックで上品な画風で人気を集めました。

瞳が大きくてどこを見ているかわからない瞳と、ちょこんとついた小さなピンクの口がついた白い顔。微笑んでいるように見えるけれども、なんだか少し悲しそうにも見える。
「ねえ、何を考えているの?」
そう話しかけたくなるような雰囲気が、ローランサンの描く女性たちにはあります。

ローランサンの作品の独特の雰囲気は、当時の貴婦人たちのあいだで人気になり、ローランサンに描いてもらった肖像画を家に飾ることがステータスになっていました。あのファッションデザイナーのココ・シャネルも肖像画の制作をローランサンに依頼したそう。

「こんな女性になってみたい」
ローランサンの作品の中の女性と向き合いながらそう思うと共に、当時の女性たちも ローランサン描く女性たちに自分の理想を重ねたのではないかと想像しました。

「かわいい」の追求者

もともと彼女はキュビズムの作家として有名になりました。
キュビズムとは理論先行の芸術の動向で、線を多用して切り刻んだような画面を作るのが特徴です。しかし、他のキュビズムの作家の作品が強くて固くて張りつめた雰囲気なのに対して、ローランサンの作品は、軽やかで優しくて、そしてかわいらしい。
彼女の作品は技法的にはキュビズムであったものの、その作品の土台は理論ではなく「かわいい」という感覚にあったようです。
重々しさや壮大さを芸術の価値と考えていた当時の西洋芸術界。その中でローランサンは、正反対の表現を追求したといえます。

さらに、ローランサンは自分がどんな状況にあってもかわいい作品を制作し続けました。
彼女が肖像画で人気を集めてパリの人気画家になるまでには、最愛の恋人との破局や、スペインへの亡命、夫のアルコール中毒など辛い出来事もありました。
しかし、そんな頃に描かれた作品も一貫して優しくてかわいい雰囲気。
さらには晩年の世の中が戦争に向かっていく環境のなかでも、ローランサンはかわいいを表現し続けます。

ローランサン作品たちからは一定してやさしく甘い雰囲気を感じますが、 彼女の人生を知ると、作品のはかなさに対して、彼女自身は徹底して自分の美意識を追求した強い女性なのだったのではないかと思わずにはいられません。

ローランサンと「かわいい」と日本

「日本でのローランサン人気は、他の国に比べて特筆している」と言うのは府中市美術館の学芸員・音ゆみ子さんです。
ローランサン回顧展が最も多く開催されたのも、また、画家の研究資料となる「作品総目録」が出版されたのも日本でした。
なぜローランサンは、日本でこんなに愛されたのか?
府中市美術館の学芸員・音ゆみ子さんは、その理由について「日本は、ローランサンのかわいい表現を受け入れる土壌ができていたから」だと説明してくれました。

昔からかわいいものを守るべきもの、育むべきものとして愛おしんできた日本人。
日本の芸術作品には、かわいい表現がいくつもみられます。
例えば江戸時代、絵師の円山応挙は駆け回る子犬たちを描き、歌川国芳は着物をまとった猫を描きました。(府中市美術館では、2013年に「かわいい江戸絵画」という展示を開催しました)
「かわいい」の表現に慣れ親しみ、評価する基盤ができていた日本だからこそ、 ローランサンの作品を理解することができたようです。

私たちの緊張をといて心をあたため、明るい気持ちにする「かわいい」の表現。
その「かわいい」のパワーに気がついていたという点で、ローランサンと日本人は共通する意識を持っていたといえます。
「私たち日本人だからこそわかる、ローランサンの良さがある」
そう思うと、ローランサンが私たちにとって特別な作家のように感じられました。

著者:kodama nao

ライター
アイコン
アート専攻。アートとその周辺への愛を文章に込めます。イラスト&デザイン&写真などなど視覚芸術の制作も大好き。好きな言葉は「柔軟な対応」です。