【ニキ・ド・サンファル展】それでも私たちは強く生きることができる|クロードクル

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2015年11月12日
【ニキ・ド・サンファル展】それでも私たちは強く生きることができる

『ニキ・ド・サンファル展』からみえたのは、自分と闘って、社会と闘って、世界を愛したひとりの女性の姿でした。

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印象的だった《自画像》

花冠とベールを身につけた美しいニキ・ド・サンファルが、微笑みながら銃口をこちらに向けている・・・。
2015年9月18日から12月14日まで国立新美術館で開催中の『ニキ・ド・サンファル展』は、そんな挑発的な映像で始まります。

ニキは反骨精神を持った女性アーティストでした。
1950年代からパリを中心に活動したニキは、男性主導の社会に対して意義を唱え、女性として生きること、社会で生きる女性たちの在り方について考え続け、晩年まで意欲的に創作を続けました。
『ニキ・ド・サンファル展』では初期から晩年までの100点以上の作品を通して、社会と向き合い続けた一人の女性アーティストのパワフルな人生を感じることができます。
A ニキ・ド・サンファル(ポートレート) ニキ・ド・サンファル(ポートレート)1983年
Yoko増田静江コレクション/撮影:黒岩雅志/(c)2015,NCAF,All rights reserved.

まず印象的だった作品は、ニキが夫と子供と別れてアーティストとして生きて行くことを決意した頃に制作された《自画像》です。
塗料が散りばめられた中に力強く描かれたニキ。彼女の頭からは赤い血が流れていて、強さと痛々しさが同時に伝わってくる作品です。
キャンバスの中のニキと向き合っていると、心の奥の弱い部分が震え、彼女の「痛み」に近づいたような気持ちに。ニキの心の葛藤と闘志を感じ、彼女についてもっと知りたいと感じました。

さらに私をニキの世界に引き込んだのは、彼女を一躍有名にした《射撃絵画》です。
《射撃絵画》は、絵の具を仕込み石膏で固めた絵画を銃で撃つ、インスタレーション要素を含んだ作品です。 展示では、ニキがパフォーマンスを行う姿を撮影した映像を大きなスクリーンでみることができます。
映像の中でニキは白い服に身をつつみ、巨大な絵画に向かって、一発、一発と銃を放ちます。自分を虐待した父親へ、自分を虐げた母親へ、自分を縛り付けた結婚生活へ、女性たちを苦しめる男性社会へ、弱い自分自身へ・・・。ニキが自分の「敵」を撃っていることはすぐにわかりました。
「私の代わりにニキが撃ってくれている」
彼女に撃たれて石膏が砕け散り、血のように塗料が流れ出す様子を見ていると心がすっとしました。それと共に、自分もニキと同じように「撃ちたい敵」が心の中にあることに気づかされました。

そして、娼婦や聖母といった様々な女性像をひとつに表現したオブジェ《赤い魔女》からは、普段は隠している正体を暴かれた気分に。私たちの体の中では、善も悪も、美も醜も、すべてごちゃまぜになって存在していることを認識させられます。

本展示のメイン作品の《ナナ》

ここから、これまでの作品で心の膿みを出し切ったかのように、作品の雰囲気は明るく華やかになります。
9《泉のナナ》 ニキ・ド・サンファル《泉のナナ》1971年/1992年
Yoko増田静江コレクション/撮影:林雅之/(c)2015,NCAF,All rights reserved.

ニキが1960年代から作り始めた《ナナ》シリーズは、カラフルな衣装をまとったまるまるとした女性たちのオブジェです。
ユーモラスでポップでかわいいオブジェからは、ニキの女性たちに対する愛情が感じられます。
それまでの作品が女性であることへの葛藤を感じさせるものだったのに対して、 《ナナ》は女性であることを完全に肯定するポジティブなパワーを持っています。
「女性でいるって楽しいんだよ!もっと力強く生きていこう!」
そう私の背中を押してくれているように感じました。

『ニキ・ド・サンファル展』からみえたのは、自分と闘って、社会と闘って、醜いものも美しいものも、すべてを引き受けて生きる強い女性の姿。
そして、展示を見終えて心に残ったのは「私たちは痛みも苦しみも抱えているけれども、力強く生きていくことができる」というメッセージでした。

著者:kodama nao

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アート専攻。アートとその周辺への愛を文章に込めます。イラスト&デザイン&写真などなど視覚芸術の制作も大好き。好きな言葉は「柔軟な対応」です。