【村上隆の五百羅漢図展】何も語らない現代アートに関する一考察|クロードクル

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2015年11月6日
【村上隆の五百羅漢図展】何も語らない現代アートに関する一考察

現代アートは分からない。その代表格が村上隆氏の作品である。しかし、村上氏は世界的に高い評価を得ており、また、私の心にも訴えかけてくるものがある。その理由について、「村上隆の五百羅漢図展」を通して考察してみたい。

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「現代アートは分からない」の象徴だったお花

現代アートは分からない。日本を代表する現代美術家・村上隆氏とて例外ではない。

そもそも私が村上隆氏を知ったのは、以前付き合っていた女の子がきっかけだ。彼女は六本木ヒルズにあるお土産コーナーを指さして「村上隆ですよ」と言った。そこにあったのは、ニコニコ笑っているお花。急に「村上隆」と言われても、何のことか分からなかった。

「村上隆って誰?」
「えっ?知らないんですか?」
「知らない」
「世界的に有名なアーティストじゃないですか!」

自分の無知を露呈した後、改めて私はお花を眺める。これらのお花の何がいいのか分からない。しかし、「分からない」という感情とともに、私の脳裏には「村上隆」の名前が刻まれた。

今思えば、この経験こそ、私と現代アートとの初めての出会いだった。現代アートがとにかく分からない。分からないから気になる。気になるから知りたくなる。
そんな私の好奇心に訴えかけてくる展覧会が『村上隆の五百羅漢図展』だった。

「お花」から「ドクロ」へ、その真相

「今の村上隆」は何を表現しようとしているのか?

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@Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

『村上隆の五百羅漢図展』は、日本での開催が14年ぶりとなる村上隆の大規模な個展だ。日本初公開となる村上氏の《五百羅漢図》に加えて、本展のために用意された約30点の新作も展示。
本展は、ポートレート作品である「円相」シリーズから始まり、やはりポートレート作品である《馬鹿》で終わる。「今の村上隆」を見せる構成となっている。
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「村上隆の五百羅漢図展」には、村上氏の象徴ともいえる「お花」は登場しない。代わりに、至るところで「ドクロ」が登場する。
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ゲスト・キュレーターの三木あき子氏は、このことを「『お花』から『ドクロ』へ」とキャッチャーなフレーズで紹介した。このフレーズを聞く限り、村上氏は「ドクロ」を描くことで何かを表現しようとしているように思われる。村上氏の目指すものは何か。
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記者会見の様子(左から南條史生氏、辻惟雄氏、村上隆氏、三木あき子氏)

「何も語らない」というテーマと戦略的な文脈

記者会見の質疑応答では、「『お花』から『ドクロ』へ」というモチーフの変化について、村上氏の意図を問う質問がなされた。それに対して村上氏は次のように答えた。
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「僕のテーマは、『何も語らない』です。ニヤニヤしているお花がズラッと並んでいるのも何のテーマもありません。ドクロも同じで、パッと見『死を想う』のような、メメント・モリのようなものを感じさせて、実は何も語らないんです」

村上氏は、アート業界におけるマーケットの動向を踏まえながら、「戦略的な文脈」でお花やドクロを描いていると語った。そして、「最近はドクロの方が受けがいいので、ドクロを描いています」と結んだ。
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村上氏は、自らの作品で「何も語らない」。そこにあるのは、市場原理に基づいた戦略だけ。だからこそ、一部の評論家やアーティストたちは村上氏を痛烈に批判する。さまざまなモチーフをマーケティングに利用している、と。

一方で、村上氏の作品は国内外で高く評価されている。この評価を支えているものは何か。村上氏の《五百羅漢図》に踏み込んで考察を深めたい。

「無」が描き出す宗教の発生原理

《五百羅漢図》誕生のきっかけとなった「ニッポン絵合わせ」

村上氏の《五百羅漢図》は、全長100メートルに及ぶ大作。「白虎」「青龍」「玄武」「朱雀」の4つの世界に描かれるのは、500人の羅漢たちと異形の霊獣たち、過去に描かれた《五百羅漢図》のモチーフ、アニメキャラを参照したイメージ・・・。膨大な視覚情報の波が鑑賞者を圧倒する。
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2009年から2011年まで、「ニッポン絵合わせ」が『芸術新潮』に連載された。美術史家・辻惟雄氏が出したお題に対して、村上氏が答を描いていくというコラボ企画だ。「ニッポン絵合わせ」で気合いが入った村上氏は《五百羅漢図》へ取り組むこととなった。
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「ニッポン絵合わせ」のきっかけは、「辻さん、なんでもいいから書いてよ。こちらはそれに合わせて描くから」という村上氏からの気楽な提案だったとか。こうした経緯からスタートした「ニッポン絵合わせ」の中で、辻氏は《五百羅漢図》に関心を示し、村上氏も「辻先生が《五百羅漢図》に傾倒されているので、『自分も描かなきゃいけないのかな?』と思った」そうだ。

東日本大震災に見られる宗教の原初的な発生

「ニッポン絵合わせ」連載中に起こった3.11の東日本大震災。村上氏は、生と死が隣り合わせの状況を目の当たりにして羅漢信仰のリアリティーを実感した。
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震災のドキュメンタリーでは、津波で両親を失った子どもたちに大人たちが「両親が空から見ているから大丈夫だよ」と声をかける。それを見た村上氏は宗教について考えたという。

「それ(=大人が子どもに言った言葉)を信じなきゃ生きていけない子どもがいる。周りもそういうものを信じさせることで子どもが救われると思っている。この瞬間に宗教の原初的な発生があるのかな、と思いました」
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しかし、村上氏は《五百羅漢図》を宗教画にはしなかった。
辻氏との対談の中で、「僕の《五百羅漢図》には『祈り』的なものが皆無で、まさに『無』みたいな感じで、なんにもない」と村上氏は語る。《五百羅漢図》の根底にあるのは、お花やドクロにも通じる「無」。これが、宗教と芸術の関係に思いを巡らせた村上氏の出した一つの結論だったのだ。

意味に溢れた時代におけるアジールとしての現代アート

村上氏の《五百羅漢図》の背後には東日本大震災があるのは確かだ。しかし、震災後のアートで頻繁に目にする悲壮感は微塵も感じられない。むしろ、そこにあるのは、辻氏が言うように、「めっぽう元気で力強い、そしてユーモラス」なエネルギーの発露だ。

《五百羅漢図》の前に立った私は、巨大な画面から伝わってくるオーラに五感が共鳴するものの、「やっぱり分からない」という困惑に駆られた。そして、ふと思ったのだ。そもそもアート鑑賞の楽しみを「理解する」ことに求めてはいけないのではないか、と。

「(《五百羅漢図》は)ある意味、『無』というか、なんでも入る『箱』みたいな作品になったと思います」と村上氏。「箱」というのは言い得て妙である。なるほど、空っぽの箱の中を覗いていたから、私は村上氏の作品を理解できなかったのだ。何も無いのだから「理解する」のは不可能だろう。
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宗教画や人物画などの伝統的な作品は、いずれも一義的に意味が定められている。村上氏の作品はその対極に位置する。《五百羅漢図》に描き込まれたモチーフは、一つ一つには何らかの意味があるにしても、全体として見ればニコニコしているお花と同じ。村上氏が言うには、「物語性があるようでないようで・・・というふらふらした感覚」があるだけだ。

村上氏の作品は、「アートは理解できるものだ」という固定観念から私たちを解放してくれる。そういう視点で《五百羅漢図》を眺めると、村上氏の作品に私が心惹かれる理由が明らかとなった。
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現代社会は意味に溢れている。現代人の多くはナンセンスなことを嫌い、何から何まで「理解できる」レベルで語ろうとする。しかし、それだけでは息苦しいし面白くもない。そんな時代にあってアジールとしての役割を果たすのが、村上氏の現代アート作品なのだろう。

私は、村上氏の《五百羅漢図》を通して、意味から解放されることで得られる「自由」を楽しませてもらった。多くの人たちもまた、意味に溢れた時代で「無」の世界に遊びたいと考えているはずだ。ここに、村上氏が高く評価される理由があるのではないだろうか。

村上隆の五百羅漢図展
http://www.mori.art.museum/contents/tm500/
●会期:2015年10月31日(土)~2016年3月6日(日)
●会場:森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
http://www.mori.art.museum/
●開館時間:10:00-22:00(火曜は10:00-17:00)
●入場料:一般1,600円 / 学生(高校・大学生)1,100円 / 子供(4歳~中学生)600円

著者:みみずく

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平日の夜は、家庭教師として小学生から高校生まで幅広く指導しています。国語・数学・英語などの主要科目だけでなく、面接・作文・小論文なども教えます。各科目の勉強法や指導テクニック、受験に関するあれこれなど、教育に関する情報を家庭教師ブログに掲載しています。「両国 家庭教師」で検索してみてください。
土日は、様々なイベントに参加するため、都内を中心に首都圏を動き回っています。アートやサブカル、妖怪、アングラ、フェチなど、偏った興味関心の赴くまま、好きなものを追い求めることに一生懸命です。名刺をばらまいたり、一眼レフで写真を撮りまくったりしているうちに、いつの間にかお友達が沢山できていました。イベントに関する情報も裏ブログ(下記サイトURL)やSNSで発信中です。
「好きな人や好きなものを応援したい!」という思いを大切に家庭教師&ライターとして奮闘中です。