『きかんしゃトーマス』の世界を親子で楽しむ展覧会
2015年7月18日から10月12日まで、東京都現代美術館において、企画展「きかんしゃトーマスとなかまたち」が開催されています。『きかんしゃトーマス』の絵本は、1945年に発表されて以降、時代を超えて多くの人々に愛されてきました。
原作の『汽車のえほん』は出版後に映像化され、30ヶ国語で放送されています。
2015年には原作出版70周年を迎えた世界的ベストセラーです。
「きかんしゃトーマスとなかまたち」は、アートミュージアムの中でトーマスを紹介するという前代未聞の試みでした。
「みる」「しる」「たのしむ」の3部で構成された展覧会の見どころを紹介します。

一緒に記念撮影できるトップハム・ハット卿と “ゴールデン・トーマス”
『きかんしゃトーマス』をみる!しる!たのしむ!
みる―3組4人の画家による絵本原画
『きかんしゃトーマス』の原作者であるウィルバート・オードリー牧師は、ユニークな蒸気機関車の物語を息子クリストファーに聞かせていました。その物語が1945年に『汽車のえほん』として出版されました。
「みる」では、3組4人の画家(レジナルド・ダルビー、ジョン・T・ケニー、ガンバー&ピーター・エドワーズ夫妻)による絵本原画が壁一面に並んでいました。
約150点の原画は、画家ごとに筆致の違いが見られます。
しかし、いずれも精緻にトーマスたちの表情が描かれています。
画家ごとに色分けされた作品ボードを順に見ていくと、動画のコマを追っているような気持ちになります。

額装された貴重な原画
原作者オードリー牧師の息子クリストファーによる新シリーズ(挿画=クライブ・スポング)も紹介されます。
トーマスたちの姿が生き生きとヴィヴィッドに描かれた絵を鑑賞できます。
また、『汽車のえほん』の初版本や流通本も展示され、トーマスの歴史を出版物という観点から辿ってみる楽しみもありました。

新シリーズの絵本とその原画
展示室を結ぶブリッジでは、「トーマスとキッズの友情フォトコンテスト」がの受賞作を展示中でした。トーマスとなかまたちを愛するこどもたちの表情が印象的でした。トーマスやパーシーと一緒に写ったこどもたちは本当に幸せそうです。

「トーマスとキッズの友情フォトコンテスト」展示風景
しる―トーマスとなかまたちを支える鉄道の歴史
ウィルバート・オードリー牧師は、「機関車は単なる列車ではなく人間のような感情を持っている」という思いを込めて、トーマスたちを生み出しました。ウィルバートがそれほどまで愛した機関車について、歴史的な背景を知ることのできる展示も充実していました。
機関車の歴史は、「鉄道の父」と呼ばれるジョージ・スチーブンソン(1781-1848)に始まります。1830年に開通したリバプール・マンチェスター鉄道で、スティーブンソンが製作した蒸気機関車「ロケット号」が正式に採用されました。それ以後、機関車は世界中に広まったのです。その記念すべき「ロケット号」(トーマスの物語にも登場します)の模型がありました。

スティーブンソン製作の蒸気機関車 ロケット号模型(縮尺1/8)1830年(模型製作1950年) 鉄道博物館蔵
日本に蒸気機関車が入ってきた幕末期、鍋島藩藩主・鍋島直正は田中儀右衛門=通称「からくり儀右衛門」らに蒸気機関車を作らせました。また、日本での鉄道創業当時の絵師たちは、実際に見たことのない蒸気機関車を、想像によって錦絵に描きました。こうした日本の鉄道事情を物語る資料が展示されていました。
日本でトーマスの国=イギリスの助けを得て鉄道が実用化した背景を知ることは、日本におけるトーマスの受容を考える上でも参考になりました。

多様な歴史展示(ジョン万次郎、勝海舟らによるスケッチほか)
展示室奥には、交通系ICカードを使った体験型展示がありました。
これは、普段使っているICカードを本体にかざすと、過去の移動履歴がスクリーン上に3D画像となって映し出され、指定駅の改札を通るとトーマスたちキャラクターが飛び出してくるという作品です。

東京大学 廣瀬・谷川研究室×東京都交通局「シェアログ・トーマス」
東京大学・廣瀬通孝教授は、「ICカードには、個人の移動履歴が入っています。これを本体にかざすと『あなたにとっての東京』が見えるので、いろいろな遊び方ができます。
美術と技術のコラボから未来の可能性を感じてほしいと思います」と作品の見どころを語りました。
たのしむ―トーマスの世界を親子で楽しむ参加体験型展示

トーマスたちと写真が撮れる「ソドー島パーティー!」
「たのしむ」のエリアには、アートミュージアムには一見そぐわないアトラクションもありました。
こどもたちはミニ電車「レッツゴートーマス」に乗ったり、ソドー島で70周年をお祝いしている大きなトーマスたちと一緒に写真を撮ったりできます。
トーマスの人間的な魅力を小さいこどもたちにも知ってもらうことのできる展示でした。

ミニ電車「レッツゴートーマス」
会場には、テレビシリーズで実際に使用されたモデル車両も展示されていました。
ストップモーション・アニメーションで大活躍したトーマスとなかまたちが勢ぞろい。 “いわのボルダー” のように岩石にも名前を付けて擬人化する世界観は、「 “八百万の神々” にも共通するような、日本でも受け入れられやすい多様なキャラクターの魅力があります」(学芸員談)

TV撮影に使われたモデル車両 (c)2015 Gullane (Thomas) Limited.
モデル車両の隣に設置されたiPad作品、「鉄道思い出のぞき窓《きかんしゃトーマス》」では、大井川鐵道でトーマス号を走らせたときの映像を見られます。
茶畑の中を走っているトーマスを体感できる素晴らしい映像でした。
また、親子でくつろげる多目的上映スペースでは、大きなスクリーンで原作出版70周年記念特典映像や現代作品、世界最初の映画=リュミエール兄弟の「ラ・シオタ駅への列車の到着」などが上映されていました。
絵本やアニメとは異なるトーマスの姿に触れられる映像表現の数々でした。

多目的上映スペース(協力 株式会社ニトリ)
展覧会の最後には、面白い作品が展示されていました。
台の上にあるのは、鉄道が一番力を持っていた昭和20年代の日本地図。この地図の上に鉄道型のアイコンを置くと、その場所固有の鉄道の映像が見られるという仕組みです。
「過去でもあり未来でもある鉄道の姿」を来場者に見せてくれる斬新な作品でした。

「路線図でたどる鉄道アーカイブ」展示風景
さまざまな切り口から迫る『きかんしゃトーマス』の世界
「きかんしゃトーマスとなかまたち」は、絵本原画だけでなく、アトラクションやモデル車両、映像、歴史的資料など、幅広い展示物を鑑賞できる展覧会でした。さまざまな切り口から『きかんしゃトーマス』の世界に迫る展示構成は、こどもと一緒に来場した大人も十分に楽しめます。
「きかんしゃトーマスとなかまたち」を訪れた親子は、こどもの視点での楽しさと大人の視点での楽しさをそれぞれ語り合うことで、楽しさを共有できたのではないでしょうか?
『きかんしゃトーマス』は、今もなおアーティストたちを魅了し、その想像力を刺激し続けます。
日進月歩の進化を遂げる鉄道技術を背景に、トーマスをテーマにした作品はこれからも世に送り出されていくのでしょう。
『きかんしゃトーマス』の可能性を実感できる展覧会でした。
きかんしゃトーマスとなかまたち
http://www.thomasandfriends.jp/mot/
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/thomas-and-friends.html
●会期:2015年7月18日(土)―10月12日(月・祝)
●会場:東京都現代美術館
135-0022 東京都江東区三好4-1-1
http://www.mot-art-museum.jp/
●開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
●休館日:毎週月曜日(2015年7月20日、9月21日、10月12日は開館)、7月21日、9月24日
●アクセス:
東京メトロ半蔵門線・清澄白河駅
都営地下鉄大江戸線・清澄白河駅
東京メトロ東西線・木場駅
都営地下鉄新宿線・菊川駅